基本は仮プレイング置き場
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アレは…、そう、あのシンドい伯爵戦争を間近に控えた頃だったか。
いつも通りにオレは夕食の買出しに出ていて、さぁ帰ろうかって時にソレを見つけた。
正確には…向こうからやって来たってのが正しい。
夕日で橙色に染まった世界。
その中で、異質極まりない真っ黒な装束を纏った女が雑踏の中に立っていた。
「酷く」綺麗な顔立ちで、「恐ろしく」澄んだ双眸がこっちを見ていたことを、
今でもはっきり覚えている。
そしてその手に、あの真っ赤な刃が握られていたことも…。
「…物騒な人だな、アンタ。人ごみのど真ん中だぞ、何を考えてる?」
得物に気がついたオレは、慌ててそいつの手を引っ掴んで人ごみから遠ざけるように走った。
とにかく、一般人の目につきにくい場所へ。
こいつが普通ではないが、リリスとかナンバードの類じゃないことだけは解った。
少なくとも、オレの「鼻」には引っかかっていない…だったら人間だ。
まぁ、走ってる最中に背中からバッサリ斬られる可能性はあったが、不思議とそれは無かった。
幸い…いや、あいつからすればそんなつもりは無かったんだろう。
今考えれば、その行動は全部説明がつくけど、にしたって無茶苦茶極まりない話だ。
ともかく、人ごみから引きずり出して向かった先はいつもの教会。
不幸なことに、その日に限って全員帰ってたのは当てが外れたと肝を冷やしたもんだ。
だから結局オレは一人でそいつと対峙することにした。
狙いは「何」か?誰かはハッキリしているから、残るは目的だ。
あんなに堂々と抜き身の剣を手に歩いていても騒がれないこと。
ゴーストじゃないが、さっきから感じる「嫌な気配」。
「アンタ、能力者だろ?学園の人間じゃないみたいだけど、何が目的だ?」
この感覚、気配に近い能力者は知っている。
黒燐蟲使いか或いは魔剣士。
ただ、それにしてはイグニッション状態にも関わらず蟲は解放されてない。
ならば魔剣士なのかと言われればそれも何処か違う。
異質な気配を放っているとはいえ、力を感じるのは「本人」ではなく「剣」の方だ。
「…ようやく会えました。フフッ、本当にまた会えるとは、運命というのも捨てたものじゃないんですね」
「は?」
「フフッ…フフフ…アハハ…」
ぶっちぎりでイカレた女だって、この時はっきり思ったよ。
銀誓館に来て、何だかんだと色んな人には会ってきたけど、その中でもとびっきりだ。
大体、鎌倉の街中でシスター服着て出歩くやつなんて普通じゃない。
加えて、独り言に独り笑い…会話も成立するのか怪しいと考えもした。
「…失礼しました。お久しぶりですね、こうしてまた出会えて嬉しいです…聖司」
「な、何でオレの名前を知ってる!?」
そんな風に思っていたから、急にまともな挨拶をするから虚を突かれた。
だけど、それ以上にサラッととんでもないことを目の前のシスターは口にしたんだ。
背筋にあんな悪寒が走ったのは、それこそ初めてゴーストに出くわした時以来だったかもしれない。
だってそうだろ?「久しぶり」に会う誰かって記憶のカテゴリーにこんな女は存在しないんだから。
「何故?…フフッ、変なことを聞くんですね、聖司。知っていて当然じゃないですか。
貴方の顔も、声…は流石に声変わりしてますね。そして何よりこうして感じる波動…全て覚えています。
ええ、忘れたことはありません。忘れるはずがありません。
…だってそうでしょう?父と母から分け合った血と肉…魂で繋がっているんですから!」
言葉が出なかった。というか何を言ってるのか一つも理解出来なかった。
ただ、前に宗教勧誘の手口とかそういう話を聞いたことがあったなって思い出した気がする。
「すまない、何のことだか全然解らない。
とにかく、オレが言いたいのはその物騒なものを早く仕舞うか隠すかしてくれってだけだ。
鎌倉にいるってことは、銀誓館を知らないわけじゃないんだろ?」
一刻も早く、この異常な状況を脱したかったオレが言い放った言葉が如何に不用意だったか。
…今思い出すと、もう少し言いようというか上手い切り返しがあったんじゃないかって思わないでもない。
とにかく、その言葉で厄介事の引鉄を引いた。それだけは間違いない。
「わ…わからない?聖司、それはどういうことですか?
私に覚えがないと…そう言うのですか?何故?この10年、貴方に何が…。
そう…、戸来の家も魔術師でしたね…ということは何かされましたか。
私も貴方も、あの日から不幸の中で生き続けてきたのですね。
むしろ、無能であっただけ私の方が幸いだったのでしょうか。
聖司、気を付けてください。貴方は利用されています、早く戸来とは手を切るべきです!」
「ちょっと待ってくれ!何の話だ?
確かに父さんの家系は魔術師だったらしいけど、それらしいことは何も無かった。
何より、不幸だったとも思ったことは無い!戸来と手を切るだって?そんなこと出来るわけないだろ。
あの家も、村も…オレにとってかけがえのない場所だ!何なんだ、いきなり現れて勝手なことばかり言って!
アンタは誰だ?オレとどんな関係がある?」
認識の相違ってのは怖いもんだなってつくづく思うよ。
段取りが違えば、「今」みたいな関係じゃなかったのかもしれないって。
…でも、もう遅かったんだ。お互いの環境の違いと、その間の10年って時の流れは運命の糸を捻じ絡ませるに十分だった。
「可哀想に…、余程厳重な刷り込みと暗示で改竄されてしまっているんですね。
覚えていませんか?オーストリアの森で二人で迷ってしまったこと、母の歪な形のパン、父から頂いた誕生日のプレゼント。
あの懐かしい穏やかな日々を。私が誰で、貴方とどんな関係にあるかと…そう言いましたね?
私の名前は逢坂真理。…そして聖司、貴方の名前は逢坂聖司です。
解りますよね?私達は逢坂の血を分け合った家族です…」
あいつの言葉が嘘でなければ、事実はそうなんだろう。
オレは戸来の養子で、5歳以前のことは覚えてない。
記憶に無いのは、自然とオレが忘れてしまっただけかもしれないし、或いは父さんが何かしたのかもしれない。
…だけど、いきなり本当の家族だなんて言われて納得できると思うか?
本当にオレの事を一番に考えてくれた人達を「嘘」と呼んで、
どんな理由であれ、オレを手放した人達を「本当」の家族だなんて簡単に考えられるか?
「そいつを信じるに足る証拠はあるのか?
超常の世界じゃ、容姿が似てるくらいはどうにでもできる話だよな。
記憶だってアンタの言い分じゃ簡単に弄り回せるものだ。
…何より、それが事実だとしても、アンタに何が解る?
命懸けでオレを育て…生かしてくれた人達の何を知ってるって言うんだよ?」
「なるほど、一理ありますね。
残念ながら真実は私しか見えてないという…その現実は認めましょう。
…では、戸来の家に案内して頂けませんか?そこで全てを開示しましょう。
貴方の帰るべき場所が本当は何処なのか、貴方が父と母と呼ぶべき人は誰なのかを…。
簡単なことです、今の私にはそれが可能なだけの力があるのですから」
「………だよ」
「はい、なんでしょうか?」
「死んだんだよ。父さんも、母さんも。二人の遺言を頼りに、オレは今此処にいる。
それから、真実だとか本当の両親が誰だとか…そんなことはどうだっていい。
あの場所で10年間、見てきたこと…聞いていたこと…接してきたこと、その何処にも嘘なんか無い。
オレの家族を…否定しないでくれ」
ほんの少しトラブルを回避しようとしただけなのに、とんでもない薮を突いたってあの時は後悔した。
正直、冷静に考えれば、自分が養子だって遺言状で初めて知らされたのが去年。
生みの親のことをこんなに早く知ることが出来たのは、むしろ幸せなことだったと思う。
一時期は何か情報は無いかって探したこともある。
……だから、心のどこかで嬉しいと思ったことは認める。
ただそれでも、死んだ父さんと母さんを疑うような相手を家族と認めることは直ぐに出来そうはない。
「…そうですか。解りました。
では、今日のところはこれで失礼します。
今度はもう少しゆっくりと話せる時に伺いますね」
「悪いが、アンタを信用したつもりはないぞ。
アンタが本当のことを言っているなんて、はっきりしたわけじゃないんだからな」
「フフッ、そうですね。今はそれで良いです」
「…なんで笑ってるんだ?信用しないって言ってるんだぞ?」
オレとは違う10年を歩んだ「きょうだい」が如何なるものを抱えて生きてきたのか、この時のオレは知らない。
ただ、あの眼は、奥底が見えないほど深くて冷たくて、寂しい場所を映していた。
歪みはしても壊れはしなかった、深海で生きるためにそうならなければならなかった。
僅かな願いを糧に、最悪の世界で足掻いていたあいつは、ようやく見つけた答えに笑っていた。
「母が…、セリカ母さまならきっと同じことを言う。そう思いました」
それ以上何も言わずにあいつは帰っていったよ。
ただ…その時、紅い剣が嘲笑ってるような気がした。
呪剣って言うだけあって、相当性格悪いなアレは。
こんな感じ。まぁ、最悪な出会いってやつだ。
お互い相手の言い分が信用出来ないって、初手からすれ違ってるんだから無理もないんだけど。
そんなだから、今でも尾を引いてあんな感じなんだよ。
嫌ってるっていうわけじゃない。
それから先は知っての通りで、何かとコミュニケーション図ろうとしてくるが、全部何処かおかしい。
もっと普通なら、そんなに邪険に扱うつもりはこっちだってないんだ。
考えたけど、結局…オレはどっちでも良い。
いや、正確にはどっちも肯定した上で、オレは「戸来」聖司だ。
覚えてないけど、生まれはあいつの言う通り逢坂で、その先に戸来として生きてきた時間がある。
否定してもしょうがないだろ。過去に遡って全部やり直せるならともかく、現実は前に向かって行くしかない。
…なら、全部背負うさ。今までとこれから…生きてく限り増えていくものは全部。
まぁ、差し当ってはこうやって飯が作れるのは戸来の家にいたからだ。悪いことじゃないだろ?
というわけで、みんなを呼んで来てくれ。
………え?ああ、今日はあいつも来てるのか。いや、解ってるって。ちゃんと人数に勘定入れて準備してる。
言っただろ、背負うって。
いつも通りにオレは夕食の買出しに出ていて、さぁ帰ろうかって時にソレを見つけた。
正確には…向こうからやって来たってのが正しい。
夕日で橙色に染まった世界。
その中で、異質極まりない真っ黒な装束を纏った女が雑踏の中に立っていた。
「酷く」綺麗な顔立ちで、「恐ろしく」澄んだ双眸がこっちを見ていたことを、
今でもはっきり覚えている。
そしてその手に、あの真っ赤な刃が握られていたことも…。
「…物騒な人だな、アンタ。人ごみのど真ん中だぞ、何を考えてる?」
得物に気がついたオレは、慌ててそいつの手を引っ掴んで人ごみから遠ざけるように走った。
とにかく、一般人の目につきにくい場所へ。
こいつが普通ではないが、リリスとかナンバードの類じゃないことだけは解った。
少なくとも、オレの「鼻」には引っかかっていない…だったら人間だ。
まぁ、走ってる最中に背中からバッサリ斬られる可能性はあったが、不思議とそれは無かった。
幸い…いや、あいつからすればそんなつもりは無かったんだろう。
今考えれば、その行動は全部説明がつくけど、にしたって無茶苦茶極まりない話だ。
ともかく、人ごみから引きずり出して向かった先はいつもの教会。
不幸なことに、その日に限って全員帰ってたのは当てが外れたと肝を冷やしたもんだ。
だから結局オレは一人でそいつと対峙することにした。
狙いは「何」か?誰かはハッキリしているから、残るは目的だ。
あんなに堂々と抜き身の剣を手に歩いていても騒がれないこと。
ゴーストじゃないが、さっきから感じる「嫌な気配」。
「アンタ、能力者だろ?学園の人間じゃないみたいだけど、何が目的だ?」
この感覚、気配に近い能力者は知っている。
黒燐蟲使いか或いは魔剣士。
ただ、それにしてはイグニッション状態にも関わらず蟲は解放されてない。
ならば魔剣士なのかと言われればそれも何処か違う。
異質な気配を放っているとはいえ、力を感じるのは「本人」ではなく「剣」の方だ。
「…ようやく会えました。フフッ、本当にまた会えるとは、運命というのも捨てたものじゃないんですね」
「は?」
「フフッ…フフフ…アハハ…」
ぶっちぎりでイカレた女だって、この時はっきり思ったよ。
銀誓館に来て、何だかんだと色んな人には会ってきたけど、その中でもとびっきりだ。
大体、鎌倉の街中でシスター服着て出歩くやつなんて普通じゃない。
加えて、独り言に独り笑い…会話も成立するのか怪しいと考えもした。
「…失礼しました。お久しぶりですね、こうしてまた出会えて嬉しいです…聖司」
「な、何でオレの名前を知ってる!?」
そんな風に思っていたから、急にまともな挨拶をするから虚を突かれた。
だけど、それ以上にサラッととんでもないことを目の前のシスターは口にしたんだ。
背筋にあんな悪寒が走ったのは、それこそ初めてゴーストに出くわした時以来だったかもしれない。
だってそうだろ?「久しぶり」に会う誰かって記憶のカテゴリーにこんな女は存在しないんだから。
「何故?…フフッ、変なことを聞くんですね、聖司。知っていて当然じゃないですか。
貴方の顔も、声…は流石に声変わりしてますね。そして何よりこうして感じる波動…全て覚えています。
ええ、忘れたことはありません。忘れるはずがありません。
…だってそうでしょう?父と母から分け合った血と肉…魂で繋がっているんですから!」
言葉が出なかった。というか何を言ってるのか一つも理解出来なかった。
ただ、前に宗教勧誘の手口とかそういう話を聞いたことがあったなって思い出した気がする。
「すまない、何のことだか全然解らない。
とにかく、オレが言いたいのはその物騒なものを早く仕舞うか隠すかしてくれってだけだ。
鎌倉にいるってことは、銀誓館を知らないわけじゃないんだろ?」
一刻も早く、この異常な状況を脱したかったオレが言い放った言葉が如何に不用意だったか。
…今思い出すと、もう少し言いようというか上手い切り返しがあったんじゃないかって思わないでもない。
とにかく、その言葉で厄介事の引鉄を引いた。それだけは間違いない。
「わ…わからない?聖司、それはどういうことですか?
私に覚えがないと…そう言うのですか?何故?この10年、貴方に何が…。
そう…、戸来の家も魔術師でしたね…ということは何かされましたか。
私も貴方も、あの日から不幸の中で生き続けてきたのですね。
むしろ、無能であっただけ私の方が幸いだったのでしょうか。
聖司、気を付けてください。貴方は利用されています、早く戸来とは手を切るべきです!」
「ちょっと待ってくれ!何の話だ?
確かに父さんの家系は魔術師だったらしいけど、それらしいことは何も無かった。
何より、不幸だったとも思ったことは無い!戸来と手を切るだって?そんなこと出来るわけないだろ。
あの家も、村も…オレにとってかけがえのない場所だ!何なんだ、いきなり現れて勝手なことばかり言って!
アンタは誰だ?オレとどんな関係がある?」
認識の相違ってのは怖いもんだなってつくづく思うよ。
段取りが違えば、「今」みたいな関係じゃなかったのかもしれないって。
…でも、もう遅かったんだ。お互いの環境の違いと、その間の10年って時の流れは運命の糸を捻じ絡ませるに十分だった。
「可哀想に…、余程厳重な刷り込みと暗示で改竄されてしまっているんですね。
覚えていませんか?オーストリアの森で二人で迷ってしまったこと、母の歪な形のパン、父から頂いた誕生日のプレゼント。
あの懐かしい穏やかな日々を。私が誰で、貴方とどんな関係にあるかと…そう言いましたね?
私の名前は逢坂真理。…そして聖司、貴方の名前は逢坂聖司です。
解りますよね?私達は逢坂の血を分け合った家族です…」
あいつの言葉が嘘でなければ、事実はそうなんだろう。
オレは戸来の養子で、5歳以前のことは覚えてない。
記憶に無いのは、自然とオレが忘れてしまっただけかもしれないし、或いは父さんが何かしたのかもしれない。
…だけど、いきなり本当の家族だなんて言われて納得できると思うか?
本当にオレの事を一番に考えてくれた人達を「嘘」と呼んで、
どんな理由であれ、オレを手放した人達を「本当」の家族だなんて簡単に考えられるか?
「そいつを信じるに足る証拠はあるのか?
超常の世界じゃ、容姿が似てるくらいはどうにでもできる話だよな。
記憶だってアンタの言い分じゃ簡単に弄り回せるものだ。
…何より、それが事実だとしても、アンタに何が解る?
命懸けでオレを育て…生かしてくれた人達の何を知ってるって言うんだよ?」
「なるほど、一理ありますね。
残念ながら真実は私しか見えてないという…その現実は認めましょう。
…では、戸来の家に案内して頂けませんか?そこで全てを開示しましょう。
貴方の帰るべき場所が本当は何処なのか、貴方が父と母と呼ぶべき人は誰なのかを…。
簡単なことです、今の私にはそれが可能なだけの力があるのですから」
「………だよ」
「はい、なんでしょうか?」
「死んだんだよ。父さんも、母さんも。二人の遺言を頼りに、オレは今此処にいる。
それから、真実だとか本当の両親が誰だとか…そんなことはどうだっていい。
あの場所で10年間、見てきたこと…聞いていたこと…接してきたこと、その何処にも嘘なんか無い。
オレの家族を…否定しないでくれ」
ほんの少しトラブルを回避しようとしただけなのに、とんでもない薮を突いたってあの時は後悔した。
正直、冷静に考えれば、自分が養子だって遺言状で初めて知らされたのが去年。
生みの親のことをこんなに早く知ることが出来たのは、むしろ幸せなことだったと思う。
一時期は何か情報は無いかって探したこともある。
……だから、心のどこかで嬉しいと思ったことは認める。
ただそれでも、死んだ父さんと母さんを疑うような相手を家族と認めることは直ぐに出来そうはない。
「…そうですか。解りました。
では、今日のところはこれで失礼します。
今度はもう少しゆっくりと話せる時に伺いますね」
「悪いが、アンタを信用したつもりはないぞ。
アンタが本当のことを言っているなんて、はっきりしたわけじゃないんだからな」
「フフッ、そうですね。今はそれで良いです」
「…なんで笑ってるんだ?信用しないって言ってるんだぞ?」
オレとは違う10年を歩んだ「きょうだい」が如何なるものを抱えて生きてきたのか、この時のオレは知らない。
ただ、あの眼は、奥底が見えないほど深くて冷たくて、寂しい場所を映していた。
歪みはしても壊れはしなかった、深海で生きるためにそうならなければならなかった。
僅かな願いを糧に、最悪の世界で足掻いていたあいつは、ようやく見つけた答えに笑っていた。
「母が…、セリカ母さまならきっと同じことを言う。そう思いました」
それ以上何も言わずにあいつは帰っていったよ。
ただ…その時、紅い剣が嘲笑ってるような気がした。
呪剣って言うだけあって、相当性格悪いなアレは。
こんな感じ。まぁ、最悪な出会いってやつだ。
お互い相手の言い分が信用出来ないって、初手からすれ違ってるんだから無理もないんだけど。
そんなだから、今でも尾を引いてあんな感じなんだよ。
嫌ってるっていうわけじゃない。
それから先は知っての通りで、何かとコミュニケーション図ろうとしてくるが、全部何処かおかしい。
もっと普通なら、そんなに邪険に扱うつもりはこっちだってないんだ。
考えたけど、結局…オレはどっちでも良い。
いや、正確にはどっちも肯定した上で、オレは「戸来」聖司だ。
覚えてないけど、生まれはあいつの言う通り逢坂で、その先に戸来として生きてきた時間がある。
否定してもしょうがないだろ。過去に遡って全部やり直せるならともかく、現実は前に向かって行くしかない。
…なら、全部背負うさ。今までとこれから…生きてく限り増えていくものは全部。
まぁ、差し当ってはこうやって飯が作れるのは戸来の家にいたからだ。悪いことじゃないだろ?
というわけで、みんなを呼んで来てくれ。
………え?ああ、今日はあいつも来てるのか。いや、解ってるって。ちゃんと人数に勘定入れて準備してる。
言っただろ、背負うって。
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