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基本は仮プレイング置き場
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6月の日曜日。
梅雨の隙間に割り込むように、珍しく晴れた昼下がりのことだった。
ただ平和そうに、呑気に惰眠を貪る少女の元へ「ソレ」がやってきたのは。

始まりを告げる呼び鈴が鳴り響く。
…が、物語の登場人物として組み込まれた「少女」は未だ眠りの中にある。
幾度か、繰り返される呼び鈴の後に訪問者が痺れを切らすまでは…。


東京の田舎とも言える、奥多摩に程近い「あきる野市」。
山と川、街の半分は自然の内にある西東京の片隅に、規模の割に余り人に知られていない神社がある。
《水各務神社》、最寄駅から「走っても」20分。そんな立地で道中に何かあるわけでもない。
当然、観光地として機能するわけもなく、知る人ぞ知る…良く言えば穴場スポットである。
実際のところは流行らない寂れた神社というのが妥当なところであろうが。

もっとも、地元では「妙な神社」といえば通じるくらいに名は知れている。

元々を辿れば、この地に存在するという《遺跡》の上に建てられた祠がこの神社の前身に当たる。
それが神社として整備され、名を与えられたのが幕末前後という歴史としては浅いもの。
とはいえ、建立の経緯としては然程おかしなところはない。
何が「妙」なのかといえば、偏に代々宮司を務める「日輪」の家にあるだろう。

…さて、その日輪の家で、現在ゴロゴロしている少女こそが現在この地の主たる者であった。
正確に言えば代理なのだが、人間社会に於いては実情というのは真実に足るのが常だ。
本人の認識がどうあれ、周りが求めれば負わざる得ない責任というものがある。

「あー……、やっぱりいるじゃないですか。日輪さーん、起きてくださーい!」

玄関で待っていても埓が開かないと思った訪問者の女性が、縁側へ周ると早々に少女を見つけて声を掛ける。
金髪…今は目を閉じているから解らないが、開けばサファイアもかくやというほどの鮮やかさを湛える瞳。
身長は高く見積もっても150センチ以内で、西洋人形のようだと言っても差し支えないだろう美少女。
ただ、そんな容姿には似つかわしくない、白い小袖に緋袴という典型的な巫女装束を纏っている。
不思議なもので、総じて明るい色で揃えられていることで色彩のバランスは取れているため見栄えはしていた。

「うにゃ?うー………ん、お客さんなのですかぁ?いらっさいませなのですよぉ…」

声を掛けられたことで、巫女の娘はゆるゆると起き上がると目を擦りながら返事をする。
寝起きのためか、やや呂律が回っていないことに訪問者は苦笑いを浮かべるが、即座に気を取り直して

「はい、おはようございます。とはいえ、もう昼前ですよ?」

と、諭すように応えた。
その堂に行った言動も当然なこと、彼女は教師である。
もっとも、大学を出たばかりの新米教師ではあるが。

「えーと…、うわわっ!?高村せんせいさんなのでした!!これはその…!?」

相手が誰なのか、ようやく把握した少女はバタバタと寝ている間に着崩れた装束と佇まいを正す。
色々と後の祭りではあるが、彼女の担任教師である高村知実は温和な表情でその様子を見守るのみである。

「気にしないでください。今日こうして来させて頂くというお話はしてませんでしたしね」

正座で咎めるならばどうぞ!とまな板の鯉もかくやという覚悟を決めている少女だったが、高村はそんなつもりは毛頭無かった。
この馬鹿正直なまでの反応が、少女の長所であり…ある種、短所でもあるなと思わでもないが。

「は、はぁ…そうなのですか?え、えと…とりあえず、お茶をお出ししましょうか?」

「そうですね、途中でおやきを買ってきましたから。お話ついでに一緒に食べましょうか、日輪さん?」

「おやきさん!?…承知しましたなのです!!」

おずおずと問う少女に、高村は微笑みながら紙袋を差し出した。
それは暗に、今日は何も「教師として」訪ねたわけではないのだという表れでもある。
しかし…同時に何も友達の家を訪れたつもりもなかった。「ある組織」のメッセンジャーとして彼女は此処に居る。

「このくらいで代償になるとは思わない。私には何の力も無くて、ごめんなさいね…」

台所へパタパタと消えていく少女、日輪かなめの背中を見守りながら高村は一人ごちた。



「…さて、お話というのは他でもなく、以前からお話していた学生寮の件です」

「あーはい、聞いていますなのです…とは言っても、お話を進めていた母様はしばらく前から不在なのです」

しばらくお茶を楽しんでから、高村は姿勢を正すと努めて事務的な口調で話を切り出す。
合わせて差し出された封筒には、近々動き始める計画の概要が書かれていた。
未だ雌伏の内にある、この世界の支配に抗いうる者達…。
闇から生まれ、闇を駆逐しうる灯りとなりうる灼滅者を一箇所に集め、ダークネスへ一斉に反抗を仕掛けようという内容だ。
その中核たるは、サイキックアブソーバーと呼ばれる異形の超機械を抱える「武蔵坂学園」…表向きには小中高一貫の教育機関である。
つまり、戦力となる者は、ほぼ例外無く学生の身分に準じる年齢。成年の者は現時点で招集出来ない。
否、正しくは招集可能な人員など皆無という方が正しい。まともに灼滅者が生存出来る環境が整ったのが、およそ20年前であるが故に。
それ以前の世代が居るとすれば、それは野生の世界に放り出された動物の幼子があらゆる天敵を掻い潜って生き残ってきたに等しい。
そういった歴史を経た者達がいるのも事実だが、全人類の人口…ひいては支配者のダークネスからすれば、「どうでもいい」数だった。
もっとも、そんな絶滅寸前まで灼滅者を狩り尽くしたのもまた、ダークネスなのだが。

さて、そういった前提の上で話を戻そう。
日輪の家は、幕末期よりこの地に「水各務神社」を建立して根付いた一族である。
そしてダークネスに対する知識も有していたため、サイキックアブソーバーの開発、そして武蔵坂学園の設立に対して協力していた経緯を持つ。
ただし、資金提供と正式可動までの警護といった役割に過ぎないものではあったが。
今回の話もその流れだった、水各務神社には過去に神社自体或いはサイキックアブソーバー開発の職員用に貸出していた宿泊施設がある。
現在、長らく使われていないが学園の拡大に伴って学生寮として再稼働させようということらしい。

しかし、ここでかなめは渋い顔を見せる。
学生寮として開放することに異論は無く、むしろ大歓迎だと両手を上げて喜びたいくらいだ。
問題はひとつ、本来その許可を出すべき、この神社の所有者である両親がこの場にいないことだけ。

「申し出を受ける準備はありますなのです。色々快適とは言い難いですが、お貸し出来るものならと。
…なのですが、わたしがこの場で許可を出せるものでも無くなのでして…」

「いえ、その点についてはご両親からかなめさんのご返事で問題ないとの了解を得ていまして」

「な、なんですとぉ!?ちょ、ちょっと先生!母様とお話されたのですか!?何時ですか?」

渋い顔から一転して、かなめはバンッと座卓を両手で叩いて高村に対して身を乗り出して返答を迫る。
何せ、数日前に「しばらく家を空けます」という置き手紙だけして、両親は家を出ていったのだ。
期間も告げなければ、母に至っては連絡先も不明だ。父側は幸いにも携帯電話を所持していたため、一応の連絡は付いていた。
しかし、曰く両親はそれぞれ別行動であり、母の行方は旦那をして「あー…さて、今どこらへんだろうなぁ」とのことである。
まぁ、父以上に強い母のことであり、父娘共に不慮の事態は心配はしていないが、問題がない訳ではない。

「買い出しも父様に任せて、神社から出てるのを殆ど見たことがない母様ですよ!?一人で遠出とかありえませんなのですよ!」

「ええっとですねぇ、かれこれ半月くらい前になりますか。そういったお話を電話ですけどさせて頂いていまして…」

剣幕に圧されながら「どうどう」と鎮めつつ、鼻先3センチに迫ったかなめの顔に弁明をする高村。
これで完全に納得するものとは正直思えないが、その場合はもう一言付け加えれば良いとの助言を貰っていた。

「これも修行の内、励みなさい…だそうですよ?」

「ぬ?しゅ…修行ですか…はぁ、そうですか…」

まさかとは思ったが、本当に効果覿面であった。
さっきまで勢いはどこへやら、掃除機のコードが巻き取られる「シュルシュル」という音が聞こえてきそうなほど、かなめは乗り出した身を元の位置に収める。
日輪の家庭事情に、詳細に首を突っ込んだことがない高村だが、噂に聞いていた言葉を思い出す。「想像の斜め上を行く脳筋一家」であると。

「そういうことなら…まぁ、父様からも任せるって言われてますしー、異論は無いなのです。
ですけどー、聞いてくださいよ先生ー!修行にしても、父様は4、5年は帰って来れないとか、普通言いますかなのです!
父様はなんでもアマゾンの奥地に幻の武術探しに行くとか言ってて、こっちも音信不通になってますし!」

以降、かなめの愚痴を高村はしばらく聞く羽目になる。
彼女の母親から電話口に言われた「娘をよろしくお願いします」とは、よもやこの展開も含まれていたのだろうかと今更ながらに思う。あまり感情を表に出さない人ではあったが、案外食えない性格をしている。
押し付けられた面倒に苦笑しながら高村は、さてどこでかなめの矛を収めさせたものかと思案にくれるのだった。

(後編に続く)

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