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基本は仮プレイング置き場
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まちのおかの うえにたつ ちいさないしづくりのいえに さんにんの むすめたちが すんでいました
むすめたちは たいそうにうつくしく くにのみんなに あいされていました
まいにち たくさんのおくりものが ばしゃにつまれて はこばれてきます
さんにんの むすめたちは なにふじゆうのない くらしを おくることができました

よるになると まっくろなふくをきた まじょが ほうきにのって てんまどから さんにんをたずねてきます

「きょうも たくさんの おくりものがあったねぇ」

しゃがれたこえの まじょは そういって ひっひっひっ とわらいます
まじょは さんにんの おやがわり
だから まいにち かおを みにくるのです

「でも ぜんぜんたのしくないわ わたしたち ここから でられないんですもの」

いちばんうえの むすめが いいました

「つぎの おくりものは とびらの かぎが いいわ」

まんなかの むすめが いいました

「いいえ わたしたちを そとへ つれだしてくれる おうじさまが いいわ」

いちばんしたの むすめが いいました

むすめたちは そとのせかいを しりません しっているのは てんまど から みえる そら と ほし と とり だけです
なにもしらない さんにんのむすめたち には あぶないからと まじょは がいしゅつを ゆるしませんでした
それでも なにもしなくても ふくも おもちゃも たべものも きん や ほうせきだって むこうからやってきます
きっと とびらのさきには もっと しあわせな せかいが あるんだろう むすめたちは そうおもいました

「いやいや そとは きけんがいっぱいさ ここにいるほうが しあわせさ」

でも まじょは くびを たてには ふりません

「でも わたしたちも いつまでも こどもじゃないわ」

「おとなは はたらいて いきるものだって ほんで よんだのよ」

「おうじさまが きてくれないなら わたしたちが さがしにいくの」

むすめたちは まじょのふくに しがみついて おねがいします
どれだけ じかんが たったでしょう
ついに まじょは むすめたちに まけて やくそくをします

「わかった わかった だったら あしたのよる つれだしてあげようね」

そういって まじょは かえっていきました


つぎのひ いつもの おくりものは なにもありませんでした

でも むすめたちには そんなことは どうでもよかったのです

あこがれの そとのせかいへ いけるのですから


「きょうは おくりものが なかったねぇ」

いつものように よるになると まじょが やってきました
てには きんいろのかぎ をもっています

「でも きょうは わたしからの おくりものさ」

ひっひっひっ とわらいながらいう まじょに さんにんのむすめは えがおで ありがとうと こたえます

「それじゃ いこうかね かぎはもう あけておいたよ」

そういって まじょは さんにんに とびらを あけるように いいました
むすめたちは じぶんがいちばん とばかりに とびらへはしります

そして いちばんうえのむすめが さいしょにとびらをあけて そとへでていきました
ふたりの むすめたちも つづいて そとへでていきます

こうして さんにんのむすめたちは そとのせかいへ と たびだって いったのでした




塔に残った魔女は、三人の娘を見送ると呟いた。

「あーあー…、開けてしまったねぇ。良く見るんだね、アンタたちが何を犠牲にして生きてきたのかをね…」

娘達が外で最初に目にしたのは、夜の闇の中で煌々と揺らぐ炎の波だった。
絵本で見たパレードのようで、風に乗ってたくさんの人達の声も聞こえた。

慟哭と
怨嗟と
絶望が

少女達が最初に耳にした外の世界の音。
揺らぐ炎はパレードではなく、街の死を意味する最期の灯火である。
或いは地獄の劫火と言うべきであろうか。

娘達は声を出せなかった。
憧れた外の世界、一歩踏み出せば何処へでも行ける世界。
しかし、目の前に広がる現実には、幸せなど在りはしなかった。

「だから言ったじゃァないか…。外は危ないってねぇ…」

扉の奥から、低く嘲るような声が響く。
そこには、親代わりとして接してきた気味悪さの中にも穏やかさを覗かせた老婆の顔は無かった。
フードに隠れた表情を覗い知ることは出来ず、それどころか「顔があるのかも定かではない」。

「状況が飲み込めてないようだねぇ?まぁ、そうだろう、そうだろう…。
それじゃあ…まずは、あんた達の「家」をよーく見るんだね…」

見てはいけない。
誰もが咄嗟に思うだろう。
全ては嘘だった、それだけでも十分なのに、魔女は更なる悪意を突きつけている。
解っている。娘達は嫌というほど解っているのに…。

如何なる魔力ゆえなのか、彼女達は振り返らざるを得なかった。

そこにあるのはモニュメントであった。
巨大な墓所と言い換えても良いだろう。
外観からは、およそ人が住んでいるなどとは思わぬであろう様相である。
しかし、誰がこんな場所を好き好んで訪れるものがあろうか。
造形は悪意があるとしか思えぬ、不快感を呼び起こす歪な曲線と名状し難い「何か」を象った石像。
全てが左右非対称、一切の角を排した曲線は均衡など微塵も考えていない。
見ているだけで距離感が狂い、少女達は吐き気を催す。
一口に邪悪と断ずるには余りあるほど、そこには負の感情だけが詰め込まれていた。

「…取引をしたのさ。この街はね、何年か前に流行病で住人全員がくたばってもおかしくないところまでいってねぇ。
ちょいと気まぐれに助けてやったわけさ。もちろん、タダで働いてやるほど…この世界は優しくない」

気がつくと、魔女は何時の間にか外へ出てきていた。
真っ黒な服が闇に溶けて、実像すら捉えられているかすら怪しい。

「助けてやった理由は唯一つ。死にかけてた奴の中に「資質」のあるのが混じってたからだ。
…そして、その資質をわたしは育てることにした。街の連中にも手伝って貰ってね」

「う…うそだ…」

「ふーん、想像が付いたのかい?やっぱり、頭はアンタが一番回るようだねぇ…でも」

真ん中の娘が唇を震わせながら、魔女の言葉を否定しようと足掻く。
だが、全てはとうに魔女の掌の上だ。

「解るだろう?お前達さ。お前達の存在が街を救った。
そりゃあ、毎日贈り物もするさ…命の恩人だものねぇ…」

「ち…ちが」

「カカカカ……、そうだね。『違うんだねぇ』。
住人達はお前達に感謝などしていない。いや…、そもそも存在を覚えてすらいない。」

考えたくはなかった。
しかし、湧き上がる恐怖が少女の脳裏に現実を焼き付ける。
黄金の日々は既に塗り潰された。真っ黒に、飲み込まれそうな程に昏い…どうしようもないほど昏い色に。

「あなたが…、あなたがぜんぶ仕組んでいたんだ…!」

末の娘は叫んだ。
そうでもしなければ飲み込まれる。
他でもない自分に、心に空けられた孔の淵が崩れてしまう。

「そうさ!毎日、決まった時間に此処に「税」を納めること。
これを怠ったら…またあの地獄の日々に返してやるって言った時にあいつらの顔…ありゃあ、傑作だったよ!」

笑う
哂う
嗤う

下卑た感情を隠そうともせずに、魔女は実に楽しそうに嘲笑っていた。

「最初の数ヶ月で手持ちの財産なんて早々に尽きるだろう?
そしたらどうだ…、今度は他の街を襲うのさ!
人間、生きるためには簡単に良心なぞ消し飛ぶもんだね」

故に贖罪の炎とでも言いたいのだろうか。
眼下で燃える街と慟哭を当然の事と魔女は言うのか。
原因を作ったのは自分でありながら、巡り巡った結末を…自作の物語であるというのに。

「そいつはァ違うねぇ…。
原因は流行病だ。それがこの街に居着いちまったの私の範疇外だよ。
私は問うただけさ…」

瞬間、上の娘の眼前に魔女は顔を突きつけていた。
鈍色の目が、その時ばかりは真実を語る。


-死んで楽になるか


-生きて絶望を甘受するか


魔女は2つの道を与えた。
唯それだけ。

「別にお前達3人をかっ攫って、他の連中を見捨てることに躊躇なんて有りはしないんだよ。
だから言ったろう?気まぐれさ…。
何も出来ずに死ぬ絶望も、足掻いた末に限界を感じて歪む絶望も、私にとっては等しいもの。
どちらが正しいこともない、それでも…人間は選ぶのさ、生きたいってね!」

結局、この物語に救いなど在りはしなかっただけ。
死病が蔓延った時点で悲劇の幕は上がり、悲劇は悲劇として幕を下ろす。
与えられたのは終劇を引き延ばすモラトリアムでしかなかった。

「ま、その絶望でついでにもう何人か堕ちたりしないかと思ったもんだけどね。
…結果はご覧の通りさ。強盗強姦を重ねた一流の略奪者はごまんと生まれたが、ダークネスにはならなかった。
挙句、略奪に次ぐ略奪の果てに、成果の一部を懐に収めてる奴がいるんじゃないかぁって疑心暗鬼で勝手に争い始めちまった。
くだらないねぇ…実にくだらない…」

「人間を…なんだと思っているの?」

人の人生に介入しておきながら、何の責任も持とうとしない魔女に、上の娘は尚も食い下がる。
こんな問いで、魔女が揺らぐはずもない。解ってはいた。それでも何か言い返せなければ、自分を保てない。

「玩具や家畜と言えば満足するのかい?…それとも、くだらないもの…つまらない存在と嘲れば良い?
生憎と…期待には添えないねぇ。私は私なりに人間を愛しているんだよ。
そうでなきゃ、気まぐれの1つ起こそうなんて気にもならないだろう?
それに…今までアンタ達には十分に愛情を注いでやったつもりだよ」

帰ってきた答えは、思いの外、情動的なものだった。
だがそれ故に…どこまでも醜悪で残酷。

「さて、問答はそろそろ終わりにしようかねぇ。
………おお、そうだ。そういえば忘れていたよ」

何かを思い出し、魔女の口元が緩む。
そして、ふと思いついたことを上の娘に唐突に耳打ちを始める。

「あ、………嗚呼アア唖々嗟呼嗚あゝああAaァァla!!」

次の瞬間、上の娘が狂ったような絶叫を響かせる。
何かが壊レた。魔女が壊シた。
辛うじて繋ぎ止めていた理性を自意識を価値観を根底から抉られた。
後に残ったのは、瞳から光が失せ、人としての部分が壊されてしまった「人形」だけだ。

「…お、お姉さまに何をした!?」

「おくりものさ。そとのせかいのしんじつってやつを教えてあげたまで…」

そう言って「ゆらり」と動くと、今度は末の娘の元へと魔女は近づく。

「こ、来ないで!!」

「アンタは何を欲しがっていたっけね。
ああ、そうだ。王子様だったか…。
ちょっと荒っぽいが、お前さんの未来の王子様を見せてやろう」

魔女が少女の額に手を当てる。
…後の光景は、先ほどと全く同じもの。
何もかもをドス黒い闇に犯され尽くした悲鳴が世界に木霊し、少女だったものが残るのみ。

「最後はアンタだ…、お前の願いは」

狂気の夜はこれで終わるのだろう。
残った娘の願いを「歪める」儀式をもって、この悪夢はひっそりと醒めていく。
この物語に救いは無い。
現れたのが悪い魔女であり、娘達に何の抗う力も意志も無かった流されるだけの結末ならば。

「わたしの願いは外の世界で、大人になること」

そう、「今」は何も出来ない。
しかし、「次」はまだ解らない。

「大人は働いて生きるもの…そうでしょう?」

聡い娘は、本で読んだ言葉を紡ぐ。
何も知らない少女にとって、それが唯一残った最後の味方だった。
明日をも知れない今、開かれた扉の先に広がっていた夜空のように広大な暗闇であったとしても、
其処には僅かながら標となる灯火が瞬いてる。

「…だから働くわ、私はあなたの手伝いをする。
それがあなたの望みでもあるのでしょう?」

今は降伏を選ぶ。
選ばざる得ないならば抵抗を諦める。
狭い世界で与えられる物を受け取るだけの雛に甘んじ続けた故の罰だと、心に刻みながら。

「カカカ…、そうかい。やはりアンタは頭が回るね。
……けど、ひとつ大きな思い違いをしているよ」

「え?」

何を?と娘は魔女に視線で問う。

「上手く取り入って自分は助かろう。機会を伺って反撃に転じようって腹積もりでもしてるんだろうさ。
けどねぇ、残念だが用があるのはアンタ達の資質であって、人間のアンタにゃ用は無いのさ!」

勝ち誇ったように嗤う魔女。
絶望を煽るその言葉、その声は策を巡らせていたならば、その意思を挫くに容易いものだっただろう。
しかし、娘は昏く嗤い…一言だけ応えた。

「識ってるわ」


それが最後の言葉となり、娘達の意識は残らず闇へ堕ちた。
ただ一人、眠るように時を待つ。
夜空に浮かぶ星一つ程の標を残しながら。

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戸来 聖司だった人
年齢:
28
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男性
誕生日:
1995/07/22
職業:
銀誓館学園学生⇒災害救助で国際的な英雄になったらしい
趣味:
機械弄り
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