基本は仮プレイング置き場
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青森のとある山中。外部との接点といえば道路が一本あるのみ。其処に小さな村が存在する。
いや、正確には村に満たない「集落」だ。そして、この場所は公的に登録された村の一部であって「何処にも無い」。
例えこの一帯の住所を役所に提出したとしても、本当の場所が該当することは無い。
誰かが知っている「別の何処か」にすり替わって認識される、そういう場所だ。
つまり、オレ…戸来聖司の故郷を誰かに話したところで伝わることが無い。
後から知った事実だが、此処は世界結界の外側にあった場所だった。
盛夏、照りつける日差しが忌々しいほどの暑さを地上にもたらしている。
本当に、こう暑くては蝉だって黙るだろう。
鎌倉に比べたら青森は涼しいだろうと踏んで来たが、その認識は甘かったと言わざるを得ない。
「ただいま、父さん、母さん。こう暑くちゃ、二人も大変だろ?」
オレはそう言いながら墓石の頭から柄杓で水をかけ流す。
炎天下に晒された「焼け石」の表面を、ジュッという音を立てて撫でていく。
気分的なものかもしれないが、僅かばかり涼しくなった気がした。
ふと空を見上げると、疎らな雲の先に見える空は広く青かった。
ほんの数ヶ月しか離れていなかったのに、それは懐かしい「良く知った世界」だ。
オレは今、両親の墓参りのために帰ってきている。
この一帯の人口自体そう多くないが、盆も過ぎると墓場に寄り付く人は極端に少なくなる。
それはそうだろう。こんな日陰の無い炎天下にわざわざ好んでやってきて、ご先祖様に挨拶にしたがる人などそう居るわけも無い。
信心深いご年配方とて、寄る年並みには勝てないというやつだ。
まぁ、それに此処に来たところで誰も居ないのだ。
この場所で「誰か」を会うことなど出来やしない。
確かに墓石の下に骨は埋まっているかもしれない。…だが、それだけだ。
『真実』を知った側から見れば、本当に「それだけのこと」でしかない。
「なんか色々と考え方がドライになってきたけど、オレは向こうでなんとかやれてるよ」
だから、オレがこうして墓石に話しかけるのも無駄なことだと解っている。
死んだ先に有るのは二つの道しかない。そう…真っ当に成仏するか、ゴーストになって生きている誰かを不幸にするかだ。
そして、真っ当に死んだ「誰か」は「個」を失う。
「在る」のは残留思念という世界に焼きついた記憶。誰のものでも無くなった幻想の単位に数えられるだけ。
嘘の無い世界の現実は、存外に空っ風が吹きそうなほど合理的に出来ている。
幻想を排除した先の現代社会で、目に見えない世界を空想する方が余程救いが有ると時々思う。
「向こうで父さん母さんにって友達におはぎとか貰ったんだぞ、母さんは好きだったよな。
流石に此処に置いとくのは拙いから、家の仏壇に置いとく。他にも土産は色々な、後で適当に物色してくれ」
応えるように風がそよぎ、線香の煙が空へ向かって燻る。
そう…それは全て気のせいだ。だとしても、オレは言葉を紡ぎ続ける。
これまでの事、そしてこれからの事を語り続ける。
この声が残留思念に溶けるなら、その中に僅かばかり残っているかもしれない二人の記憶に届くかもしれないのだから。
「…さて、それじゃ行くよ。次に来るのはたぶん来年だ、ああ…必ず来る」
最後の一言はむしろ自分に言い聞かせる言葉だったのかもしれない。
この世界は、本当に些細なことで命在るもの間引いていくから。
そんな理不尽に負けないためにオレはあの場所に居る。…そして、今はそれだけでは無くなった。
世界に騙されたまま犠牲になる誰かをオレは少しでも救えるだろうか…と、そう思うようになった。
同時にそれは自らを危険に晒す行為となる。
抗うべき理不尽を余計に背負うことになる。
…その覚悟は、正直まだ揺らいでいる。
だからだろう、なんだかんだ理由をつけて盆の過ぎた「今」を選んだのは。
《現実》は死んだ誰かに会う事は無い。けれど…もしも会ってしまったらと考えて、盆を避けて来た。
オレは、まだ答えを見つけていない。
----今、目に見える現実に抗う気があるなら、鎌倉の銀誓館を頼れ。其処にお前の真実へと至る道が在る。
----願わくば、その先にお前が望む生き方が有ることを願っている。
遺言状にあった道標は確かにオレを生かすための手段だった。
だが、最後に綴られた一文が、今になって重い。
結局はそれしかないから、戦わざるを得ないと…オレの中には、まだ生きる信念が無い。
問いに対する答えが無い今、オレは二人を安心して眠らせることが出来ないだろう。
「…だから、来年だ。それまでにやれることをやって、その中で決めることを決めてくる」
言葉は風に乗り、世界に溶けた。
墓石を伝う水がもう乾いていた。漂う線香の煙さえ、もうすぐ消える。
此処にオレがいた痕跡は何も残らないだろうが、今はまだそれで良い。
…そうして夏が過ぎ往く。
物言わぬ墓石に一匹の蜻蛉が佇む。
ただ、それだけの日常を残して。
いや、正確には村に満たない「集落」だ。そして、この場所は公的に登録された村の一部であって「何処にも無い」。
例えこの一帯の住所を役所に提出したとしても、本当の場所が該当することは無い。
誰かが知っている「別の何処か」にすり替わって認識される、そういう場所だ。
つまり、オレ…戸来聖司の故郷を誰かに話したところで伝わることが無い。
後から知った事実だが、此処は世界結界の外側にあった場所だった。
盛夏、照りつける日差しが忌々しいほどの暑さを地上にもたらしている。
本当に、こう暑くては蝉だって黙るだろう。
鎌倉に比べたら青森は涼しいだろうと踏んで来たが、その認識は甘かったと言わざるを得ない。
「ただいま、父さん、母さん。こう暑くちゃ、二人も大変だろ?」
オレはそう言いながら墓石の頭から柄杓で水をかけ流す。
炎天下に晒された「焼け石」の表面を、ジュッという音を立てて撫でていく。
気分的なものかもしれないが、僅かばかり涼しくなった気がした。
ふと空を見上げると、疎らな雲の先に見える空は広く青かった。
ほんの数ヶ月しか離れていなかったのに、それは懐かしい「良く知った世界」だ。
オレは今、両親の墓参りのために帰ってきている。
この一帯の人口自体そう多くないが、盆も過ぎると墓場に寄り付く人は極端に少なくなる。
それはそうだろう。こんな日陰の無い炎天下にわざわざ好んでやってきて、ご先祖様に挨拶にしたがる人などそう居るわけも無い。
信心深いご年配方とて、寄る年並みには勝てないというやつだ。
まぁ、それに此処に来たところで誰も居ないのだ。
この場所で「誰か」を会うことなど出来やしない。
確かに墓石の下に骨は埋まっているかもしれない。…だが、それだけだ。
『真実』を知った側から見れば、本当に「それだけのこと」でしかない。
「なんか色々と考え方がドライになってきたけど、オレは向こうでなんとかやれてるよ」
だから、オレがこうして墓石に話しかけるのも無駄なことだと解っている。
死んだ先に有るのは二つの道しかない。そう…真っ当に成仏するか、ゴーストになって生きている誰かを不幸にするかだ。
そして、真っ当に死んだ「誰か」は「個」を失う。
「在る」のは残留思念という世界に焼きついた記憶。誰のものでも無くなった幻想の単位に数えられるだけ。
嘘の無い世界の現実は、存外に空っ風が吹きそうなほど合理的に出来ている。
幻想を排除した先の現代社会で、目に見えない世界を空想する方が余程救いが有ると時々思う。
「向こうで父さん母さんにって友達におはぎとか貰ったんだぞ、母さんは好きだったよな。
流石に此処に置いとくのは拙いから、家の仏壇に置いとく。他にも土産は色々な、後で適当に物色してくれ」
応えるように風がそよぎ、線香の煙が空へ向かって燻る。
そう…それは全て気のせいだ。だとしても、オレは言葉を紡ぎ続ける。
これまでの事、そしてこれからの事を語り続ける。
この声が残留思念に溶けるなら、その中に僅かばかり残っているかもしれない二人の記憶に届くかもしれないのだから。
「…さて、それじゃ行くよ。次に来るのはたぶん来年だ、ああ…必ず来る」
最後の一言はむしろ自分に言い聞かせる言葉だったのかもしれない。
この世界は、本当に些細なことで命在るもの間引いていくから。
そんな理不尽に負けないためにオレはあの場所に居る。…そして、今はそれだけでは無くなった。
世界に騙されたまま犠牲になる誰かをオレは少しでも救えるだろうか…と、そう思うようになった。
同時にそれは自らを危険に晒す行為となる。
抗うべき理不尽を余計に背負うことになる。
…その覚悟は、正直まだ揺らいでいる。
だからだろう、なんだかんだ理由をつけて盆の過ぎた「今」を選んだのは。
《現実》は死んだ誰かに会う事は無い。けれど…もしも会ってしまったらと考えて、盆を避けて来た。
オレは、まだ答えを見つけていない。
----今、目に見える現実に抗う気があるなら、鎌倉の銀誓館を頼れ。其処にお前の真実へと至る道が在る。
----願わくば、その先にお前が望む生き方が有ることを願っている。
遺言状にあった道標は確かにオレを生かすための手段だった。
だが、最後に綴られた一文が、今になって重い。
結局はそれしかないから、戦わざるを得ないと…オレの中には、まだ生きる信念が無い。
問いに対する答えが無い今、オレは二人を安心して眠らせることが出来ないだろう。
「…だから、来年だ。それまでにやれることをやって、その中で決めることを決めてくる」
言葉は風に乗り、世界に溶けた。
墓石を伝う水がもう乾いていた。漂う線香の煙さえ、もうすぐ消える。
此処にオレがいた痕跡は何も残らないだろうが、今はまだそれで良い。
…そうして夏が過ぎ往く。
物言わぬ墓石に一匹の蜻蛉が佇む。
ただ、それだけの日常を残して。
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