基本は仮プレイング置き場
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雪の降る街を影が疾駆する。
全てが白い雪化粧に覆われた街に点々と足跡だけを残して駆ける。
「ソレ」自体が自らを追い詰めるモノになろうとは、当の本人は気づきもしないだろう。
生前はともかく、今は既にそんな知識を持ち合わせていないのだから。
「…ふふっ、楽しいわね…スヴァローグ?」
雪上に続く足跡に目を落とした少女がそう呟いて嗤う。
真紅の刃を携えた修道服の少女が妖しく嘲笑う。
少女はただ、今宵の狩りを楽しんでいた。
影はいつの間にか人気の無い路地裏へと迷い込んでいた。
否、正確には追い詰められていたという方が正しい。
おかしいと「彼」は思った。
元々、狩る側だったのはどちらであったのかと。
人間は彼にとって獲物でしかなかったはずである。
それがどうして逃げなければならないのか。
至る答えは至極単純なことだ。
------アレは人間では無い。
彼はそう思うしかなかった。
人の皮を被った別の何かであると、そうでも思わねば理解できない事が多過ぎた。
得体の知れない恐怖、それは出会ったことそのものが不幸であるかのように拭い去れない。
「逃亡劇は此処まで?ねぇ、господин?」
「…!?」
ようやく一息ついたと思っていた彼の背筋が凍る。
物理的な寒さを越えて、ゾッとするほど優美な声色が暗がりに響く。
ゆっくりとザクザクという雪を踏みしめる音と共にモンスターが気配を振り撒いて近づいてくる。
「此処はまるで檻のよう…、夜と雪で人を閉じ込める歪な世界…」
まるで芝居の演者であるかのように、少女は詩情めいた言葉を紡ぎながら鈍色に染まる雪空へ片腕を掲げる。
…だが、彼の視線は少女の挙動に向いていない。
注意を払うべきは、ただ少女の握る真紅の刃だけだ。
大凡、人を殺すために作られたとは思えぬ過剰装飾の柄と金属には思えぬ刀身の色彩は一見、美術品であるかのよう。
しかし…そうではないのだ。「アレ」はそんな高尚な代物ではない。
そもそも「剣」というカテゴリに収めること自体が間違いだと本能が警笛を鳴らす。
あらゆるモノが抜け落ち、虚構の生を与えられた存在となった彼でもはっきり解ることがある。
「アレ」はこちら側の存在だ…と。
本来は決して人間と相容れないモノ。
或いは人間を利用して存在しうるモノ。
故に彼は自らに躙り寄る少女をモンスターと呼ぶのだ。
アレは既に人間ではなく、「喰われた人間の成れの果て」モンスターだと。
「………ああ、もう良いわ。
飽きました、此処は息が詰まる…行きましょう、スヴァローグ?」
誰に語りかけているのか、この場において存在するのは「彼」と「少女」のみであるというのに。
そんな疑問を「彼」が過ぎらせ真紅の刃から注意を解いた、ほんの僅かな瞬間だった。
そこに居たはずの少女の姿が彼の視界から消え失せる。
しかし、自らを追うことを止めたわけではないことは直ぐに解った。
一瞬の…されど今までより遥かに濃密な殺気が彼を撫で付け、視界の脇を黒い影が抜けていくのが見える。
「退屈ね…、ここは本当に退屈…」
ボソボソと呟く少女の声は、悲しみとも怒りとも取れる混沌の声色だった。
耳元で聞こえた声から、通り抜ける影が修道服の少女だということは僅かに残る思考で把握出来る。
…が、その現状把握全てが遅かった。否、少女がこの場に現れた時点でどうにかして逃げることを考えるべきだった。
彼が「獲物」であるなら、少女の戯言になど付き合わずに一目散に逃げるべきだったのだ。
-----------何処へ?
深く冷たい極北の海を思わせる少女の眼が問う。
それは答えの無い問いだ、彼は何処へ往くことも出来ない。
此処が何処であるのかも解らない彼に答える術など無い。
刹那、彼は自身に片腕の感覚が無いことに気がついた。
正確には、あるはずのものが無くなるという喪失感に塗り潰されていた。
止せば良いのに、何かに引き摺られる彼は恐る恐る視線を左腕へ向け、結局は用意された絶望を享受する。
加えてその認識は新たなる地獄を彼に与えるだけの儀式でしかない。
肩口から断たれた傷口が突如として燃え上がり、自らの肉が焼ける不快な臭いと極大の苦痛を彼は味わう。
絶叫が薄暗い路地裏に響く。
失った肉体、欠損は自らの死期を大きく進める。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
沸き上がる生への執着、渇望が、残っていた彼の理性を完全に放棄させる。
負った傷を治すために必要なものは何か。
崩れゆく身体を維持するために必要なものは何か。
何より、自らを傷つけたものは何か。
人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間。
最早、ただの屍鬼と成り果て、本能の塊となった彼には「人間」という認識はそのまま襲い食らいつくべきモノとなる。
嗚呼…もう少し理性が残っていれば、振り返った先に見据えたモノの異常性に気づいただろうに。
「摘み食いなんて、下品ね…スヴァローグ。
私は食事を禁止したわけではないの、まだ食べては駄目と言ったのに…」
襲い来る彼、リビングデッドを前にしながら、少女は手にした剣に批難を向けていた。
剣は何も答えない。ただ蛇のような身と蜥蜴のような顎を動かして「何か」を咀嚼している。
肉を食み、骨を砕く…大凡、上品とは思えぬ音を立てて、剣はまるで獣のような食事を続ける。
そこに、美術品と思わしき優美な長剣の姿は無い。
「擬態」を解いた真紅の蛇が、幾日振りかの栄養補給を求めて血と肉を欲していた。
剣の名は「呪剣」、忌むべき呪いを宿す外道、魔剣中の魔剣、死喰の獣、形容の仕方は数あれど本質は唯一つ。
世界結界の外側に在る世界の異質、それだけである。
「まぁ…良いわ。この遊びにも飽きたところだもの…。
『開放』を許します、喰らいなさい…スヴァローグ!!」
声にならない絶叫と止めど無い涎を垂れ流しながら、リビングデッドは少女に狙いを定め迫る。
獣じみた速度の突撃は相手が人間なら十分に仕留め得ただろう。
しかし、彼の脳は既に「どうやって」腕をもぎ取られたのかという現実を思い出すことさえ出来ない。
淡々と告げる少女の手で呪剣が許しを得たことで嬉々として鎌首を擡げた。
貪欲に開口し、覗く牙からは焼け焦げた肉片とブスブスと水分を蒸発させるながら血の雫が滴る。
複雑に畝ねる刀身だったモノが明確な意思を示し、眼前のリビングデッドを睨み嘲笑う。
キキキキ…と、妖しく鋼の擦れる音に合わせ所有者…少女の口元も緩んだように見えた。
遭遇から今まで、全てが戦いではない。これは明確にして無慈悲な生存競争…即ち狩猟なのである。
故に獲物が自らに向かってくるという状況は、狩る側において唯の好機でしかない。
金属で出来ているとは思えないほど柔軟な動きで呪剣スヴァローグが疾る。
間合いに入ったリビングデッドの頭上へ瞬く間に陣取ると、まるで傘のように獲物を覆う。
「До свидания…、共に生きましょう?」
赦し囁く少女だが、その眼に慈悲は無い。
呪剣同様に、少女にとってもゴーストは栄養補給の手段でしかない。
憎しみも哀れみも無い。家畜を食らうことと同じく、ゴーストを代償に生きるだけ。
言葉と共にスヴァローグは彼の上半身を丸ごと喰い千切っていた。
焼ける肉の音と咀嚼音が再び静寂の中に響く。
降り止まぬ雪の中、真っ赤に染まった雪の上で修道服の少女は虚ろな顔のまま立ち尽くしていた。
「日本…、日本に行くの。
其処に私が求め続けたものがあるのよ…」
食事を続けるスヴァローグを撫でながら少女は呟く。
少女は檻の外へ出る力を得た。
無能と蔑まれた過去と決別して、自らの道を選べる力を得た。
「ようやく…、ようやくこの枷から開放されるの。
マリー・ヴィッテという仮初の名と、それにまつわる世界から。
そうだ…、私は逢坂真理。父と母から受け継いだ本当の私に戻る…」
言葉を紡ぎながら、少女…真理は嗤う。
抑圧されてきた10年を思い、その全てに唾を吐きかけて、「ざまあみろ」と歪んだ嗤いを浮かべる。
暗い雪夜に真理は嗤う。
共にあろうと呪剣もキリキリと音を響かせ震えた。
暫くの後、雪の絨毯にはどす黒く変色した血の跡だけが残った。
舞い散る雪をも燃やす妄執の影は、東を目指し旅立っていった。
全てが白い雪化粧に覆われた街に点々と足跡だけを残して駆ける。
「ソレ」自体が自らを追い詰めるモノになろうとは、当の本人は気づきもしないだろう。
生前はともかく、今は既にそんな知識を持ち合わせていないのだから。
「…ふふっ、楽しいわね…スヴァローグ?」
雪上に続く足跡に目を落とした少女がそう呟いて嗤う。
真紅の刃を携えた修道服の少女が妖しく嘲笑う。
少女はただ、今宵の狩りを楽しんでいた。
影はいつの間にか人気の無い路地裏へと迷い込んでいた。
否、正確には追い詰められていたという方が正しい。
おかしいと「彼」は思った。
元々、狩る側だったのはどちらであったのかと。
人間は彼にとって獲物でしかなかったはずである。
それがどうして逃げなければならないのか。
至る答えは至極単純なことだ。
------アレは人間では無い。
彼はそう思うしかなかった。
人の皮を被った別の何かであると、そうでも思わねば理解できない事が多過ぎた。
得体の知れない恐怖、それは出会ったことそのものが不幸であるかのように拭い去れない。
「逃亡劇は此処まで?ねぇ、господин?」
「…!?」
ようやく一息ついたと思っていた彼の背筋が凍る。
物理的な寒さを越えて、ゾッとするほど優美な声色が暗がりに響く。
ゆっくりとザクザクという雪を踏みしめる音と共にモンスターが気配を振り撒いて近づいてくる。
「此処はまるで檻のよう…、夜と雪で人を閉じ込める歪な世界…」
まるで芝居の演者であるかのように、少女は詩情めいた言葉を紡ぎながら鈍色に染まる雪空へ片腕を掲げる。
…だが、彼の視線は少女の挙動に向いていない。
注意を払うべきは、ただ少女の握る真紅の刃だけだ。
大凡、人を殺すために作られたとは思えぬ過剰装飾の柄と金属には思えぬ刀身の色彩は一見、美術品であるかのよう。
しかし…そうではないのだ。「アレ」はそんな高尚な代物ではない。
そもそも「剣」というカテゴリに収めること自体が間違いだと本能が警笛を鳴らす。
あらゆるモノが抜け落ち、虚構の生を与えられた存在となった彼でもはっきり解ることがある。
「アレ」はこちら側の存在だ…と。
本来は決して人間と相容れないモノ。
或いは人間を利用して存在しうるモノ。
故に彼は自らに躙り寄る少女をモンスターと呼ぶのだ。
アレは既に人間ではなく、「喰われた人間の成れの果て」モンスターだと。
「………ああ、もう良いわ。
飽きました、此処は息が詰まる…行きましょう、スヴァローグ?」
誰に語りかけているのか、この場において存在するのは「彼」と「少女」のみであるというのに。
そんな疑問を「彼」が過ぎらせ真紅の刃から注意を解いた、ほんの僅かな瞬間だった。
そこに居たはずの少女の姿が彼の視界から消え失せる。
しかし、自らを追うことを止めたわけではないことは直ぐに解った。
一瞬の…されど今までより遥かに濃密な殺気が彼を撫で付け、視界の脇を黒い影が抜けていくのが見える。
「退屈ね…、ここは本当に退屈…」
ボソボソと呟く少女の声は、悲しみとも怒りとも取れる混沌の声色だった。
耳元で聞こえた声から、通り抜ける影が修道服の少女だということは僅かに残る思考で把握出来る。
…が、その現状把握全てが遅かった。否、少女がこの場に現れた時点でどうにかして逃げることを考えるべきだった。
彼が「獲物」であるなら、少女の戯言になど付き合わずに一目散に逃げるべきだったのだ。
-----------何処へ?
深く冷たい極北の海を思わせる少女の眼が問う。
それは答えの無い問いだ、彼は何処へ往くことも出来ない。
此処が何処であるのかも解らない彼に答える術など無い。
刹那、彼は自身に片腕の感覚が無いことに気がついた。
正確には、あるはずのものが無くなるという喪失感に塗り潰されていた。
止せば良いのに、何かに引き摺られる彼は恐る恐る視線を左腕へ向け、結局は用意された絶望を享受する。
加えてその認識は新たなる地獄を彼に与えるだけの儀式でしかない。
肩口から断たれた傷口が突如として燃え上がり、自らの肉が焼ける不快な臭いと極大の苦痛を彼は味わう。
絶叫が薄暗い路地裏に響く。
失った肉体、欠損は自らの死期を大きく進める。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
沸き上がる生への執着、渇望が、残っていた彼の理性を完全に放棄させる。
負った傷を治すために必要なものは何か。
崩れゆく身体を維持するために必要なものは何か。
何より、自らを傷つけたものは何か。
人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間…人間。
最早、ただの屍鬼と成り果て、本能の塊となった彼には「人間」という認識はそのまま襲い食らいつくべきモノとなる。
嗚呼…もう少し理性が残っていれば、振り返った先に見据えたモノの異常性に気づいただろうに。
「摘み食いなんて、下品ね…スヴァローグ。
私は食事を禁止したわけではないの、まだ食べては駄目と言ったのに…」
襲い来る彼、リビングデッドを前にしながら、少女は手にした剣に批難を向けていた。
剣は何も答えない。ただ蛇のような身と蜥蜴のような顎を動かして「何か」を咀嚼している。
肉を食み、骨を砕く…大凡、上品とは思えぬ音を立てて、剣はまるで獣のような食事を続ける。
そこに、美術品と思わしき優美な長剣の姿は無い。
「擬態」を解いた真紅の蛇が、幾日振りかの栄養補給を求めて血と肉を欲していた。
剣の名は「呪剣」、忌むべき呪いを宿す外道、魔剣中の魔剣、死喰の獣、形容の仕方は数あれど本質は唯一つ。
世界結界の外側に在る世界の異質、それだけである。
「まぁ…良いわ。この遊びにも飽きたところだもの…。
『開放』を許します、喰らいなさい…スヴァローグ!!」
声にならない絶叫と止めど無い涎を垂れ流しながら、リビングデッドは少女に狙いを定め迫る。
獣じみた速度の突撃は相手が人間なら十分に仕留め得ただろう。
しかし、彼の脳は既に「どうやって」腕をもぎ取られたのかという現実を思い出すことさえ出来ない。
淡々と告げる少女の手で呪剣が許しを得たことで嬉々として鎌首を擡げた。
貪欲に開口し、覗く牙からは焼け焦げた肉片とブスブスと水分を蒸発させるながら血の雫が滴る。
複雑に畝ねる刀身だったモノが明確な意思を示し、眼前のリビングデッドを睨み嘲笑う。
キキキキ…と、妖しく鋼の擦れる音に合わせ所有者…少女の口元も緩んだように見えた。
遭遇から今まで、全てが戦いではない。これは明確にして無慈悲な生存競争…即ち狩猟なのである。
故に獲物が自らに向かってくるという状況は、狩る側において唯の好機でしかない。
金属で出来ているとは思えないほど柔軟な動きで呪剣スヴァローグが疾る。
間合いに入ったリビングデッドの頭上へ瞬く間に陣取ると、まるで傘のように獲物を覆う。
「До свидания…、共に生きましょう?」
赦し囁く少女だが、その眼に慈悲は無い。
呪剣同様に、少女にとってもゴーストは栄養補給の手段でしかない。
憎しみも哀れみも無い。家畜を食らうことと同じく、ゴーストを代償に生きるだけ。
言葉と共にスヴァローグは彼の上半身を丸ごと喰い千切っていた。
焼ける肉の音と咀嚼音が再び静寂の中に響く。
降り止まぬ雪の中、真っ赤に染まった雪の上で修道服の少女は虚ろな顔のまま立ち尽くしていた。
「日本…、日本に行くの。
其処に私が求め続けたものがあるのよ…」
食事を続けるスヴァローグを撫でながら少女は呟く。
少女は檻の外へ出る力を得た。
無能と蔑まれた過去と決別して、自らの道を選べる力を得た。
「ようやく…、ようやくこの枷から開放されるの。
マリー・ヴィッテという仮初の名と、それにまつわる世界から。
そうだ…、私は逢坂真理。父と母から受け継いだ本当の私に戻る…」
言葉を紡ぎながら、少女…真理は嗤う。
抑圧されてきた10年を思い、その全てに唾を吐きかけて、「ざまあみろ」と歪んだ嗤いを浮かべる。
暗い雪夜に真理は嗤う。
共にあろうと呪剣もキリキリと音を響かせ震えた。
暫くの後、雪の絨毯にはどす黒く変色した血の跡だけが残った。
舞い散る雪をも燃やす妄執の影は、東を目指し旅立っていった。
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